仙人力光線

富嶽仙人
01/02/08 23:38 霧氷の朝
 

2月3日

  豪雪から一週間。あの日に行けなかった山中湖に出かけてみた。ここ連日厳しい冷え込みで、忍野や山中湖では霧氷ができており、もちろん今日はその期待もある。

 午前四時半、本栖から鳴沢ヘ向かう国道の一部には、まだ圧雪が残っていてスリップしやすい状態だ。ところどころにあるのがたちが悪い。
 

山中湖平野

 無雪期には車が乗り入れられる湖畔には、今は大きな雪の壁に阻まれて入れない。その壁の前には既に数十台の車が集結し夜が明けるのを待っていた。こんなに車があるのだから、湖畔にはもう三脚が沢山立っているのだろう・・と思いきや、あれ? 一本も無い、誰もいない。良く見ると皆さん車の中で待機モードなのであった。
 
  湖畔を被う雪には足跡もなく処女雪状態・・これ踏んでいいんかいな・・・ちょっと気が引けたが一歩、二歩・・・ずぼっ!  こりゃいかん、スノーシューつけよっと。我が車には足下を固める兵器が備えられている。車の中は、靴だけでも軽登山靴、雪山用プラスチックブーツ、長靴を常備、そしてスノーシュー、アイゼンなど盛りだくさんのおもちゃ箱。家の中に置けないから車の中にあるとも言われているが・・。
 
  さて、さっき「気が引ける」と書いたのは、
「この雪面を画面の一部にしたいカメラマンもいるだろうなあ」
ということなのだ。車道の近くの木々には霧氷がつき始めている。これを前景に入れて富士山を撮ろうとすると、その間に湖畔が入る。そこに足跡があったり、ましてやカメラマンに立たれたりしたら嫌だろうと思ったのだ。しかし既にこの人数。ある程度は湖畔に出なければ全員は並べない。

「いいや、出てしまえ」
と僕は湖畔に出た。さてそこで、出るにはでたがどこまで出たものか・・・。雪は厚く、結氷した湖と岸との区別は全くつかない。道路からの距離でこの辺というのはわかるのだが、もともとどこまで出ても前景は同じなのだから前に出る必要もないのだ。結局僕湖面からかなり下がった位置に三脚を据えた。



朝の山中湖

もはや湖の様相は呈していない。ただの雪原である。2001.2.3


  気がついてみると僕が歩いた道がカメラマンの前線になってしまったようで、そのライン上に三脚が並び始めている。おまけに既に撮影中の僕のカメラのすぐ前を人が通りすぎる・・おいおい。
 
  実は僕が立てた三脚の前は無雪期には水が流れこんでいる、いわば「川」であり、雪が薄くてズボズボ足をめり込ませなくても歩けるのである。逆に僕の後ろを回り込もうと思えば膝辺りまで足がめりこんでしまう。そんな理由もわかるし、またなぜか無邪気にこちらに話しかけたりしてくるので、「前を通るな」ともいえず、そのままにしてしまった。「まあ、たいした写真じゃないし、良いか」と。ちなみに出来上がった写真には懐中電灯の明りがうっすらと写っていた以外にはおじさん達の姿はなかった。長時間露光することで動くものは消えちゃうのです。
 
  富士山のほうは平凡な朝。朝焼けの時間帯が終わるとカメラマンの前線は霧氷の木々のところまで後退。この霧氷とは空気中の水分が過冷却され木々氷になって付着するものを言う。発生の条件としては、温度が低く・・・マイナス5℃以下くらい、そして、空気の中に十分な水分があることが必要だ。山中湖畔や、忍野村の桂川流域、あるいは畑の用水路の近くなどはこの条件が満たされやすく霧氷が見られる確率が高い。
 
 


霧氷

山中湖畔 2001.2.3


  いつまでも前に残っているカメラマンは霧氷と富士山を組み合わせた撮影に邪魔なので「そろそろ退きませんか」と後ろから声がかかる。数人のカメラマンと寄り添うようになりながら、僕も一応「霧氷と富士」なるものを撮った。中判レンジファインダーカメラであるプラウベルマキナでも撮ったのだが、悲しいことにレンズが曇っており、仕上がった写真は霧の中の霧氷と富士になってしまっていた。このカメラはいわゆるコンパクトカメラと同じで、レンズを通した絵をファインダーで確認できているわけではないので、こんな失敗もある。あると言いきってはいかん、過ちを繰り返さないようにしなくては・・。
 


湖面の紋様

このあたりは湖面は完全な雪原にはなっておらず、面白い模様が出来ている。
山中湖 長池 2001.2.3


 河口湖のプロラボへ寄ったり、河口湖畔で撮ったりして、のんびりとした時間を過ごす。あまり好きではない西湖の近くの野鳥の森公園の氷像まで撮ってしまった、



一斉に飛び立つ鴨

河口湖も最近には珍しく結氷が進んでおり、面白い景色が見られる。
カメラを向けてちょっと驚かせてしまったか、鴨が一斉に飛び立った
河口湖 戸沢 2001.2.3


パノラマ台

 時間は午後1時を回った。これからは西側の時間帯だ。精進湖の県営駐車場に駐車。しかしこの駐車場は除雪が満足に出来ておらず駐車スペースが極端に狭い。普段は比較的空いているのだが、いつも車で入れる湖畔が当然積雪で車が入れない状態だから、「停めたい人はいつにもまして多い」という需要と供給のバランスがとても悪い状況に陥っていた。
 
 雪の壁に頭を少しめり込ませて駐車。これからパノラマ台まで行くことにする。富士山の写真を撮られる方は、パノラマ台というとたいていは山中湖から三国峠に向かう途中の駐車スペースのある展望台を思い浮かべるようなのであるが、一般に富士五湖地方で「パノラマ台」といえば、精進湖と本栖湖の中間にある、こちらのパノラマ台を差す。むこうのパノラマ台は車でいけるがこちらのアクセス手段は
徒歩のみ。古くから良く知られたハイキングコースで精進湖からおよそ1時間の道のりだ。

 積雪は多いがトレースがあるため歩行は楽。積雪は50cmくらいだろうか。ときおりストックがグリップの下まで突き刺さる。中間地点の展望地でしばし休憩。上から登山の団体が下ってきた。思いがけない雪山を満喫してきたようで皆さん満足げだ。

 稜線付近は積雪量はさらに多くところによっては70cmくらいはある。先週はもっと凄かったのであろう。精進山、三方分山方面へはトレース無し、精進山までという気もほんのちょっぴりあったが、ここでスッパリと諦めがついた。
 
  


富士山と雪上の足跡

極上の展望を楽しみに来たのは、どうやらヒトだけではないらしい。
パノラマ台 2001.2.3

 
 誰も居ないパノラマ台到着。真っ白な精進湖を眼下に、三方分山から東に連なる御坂山地が見通せる。富士山の麓は雪で黒白のまだら模様になった青木ケ原の大樹海。さらに右には本栖湖が西に傾いた太陽の光を受けて最後の輝きを見せていた。

 

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