仙人力光線

富嶽仙人
00/12/19 00:28 出会いの瞬間

 今回も引き続いてカメラの話をすることをお許し願いたい。カメラに全く興味がない方にとっては全くチンプンカンプンでつまらない話であろうが、まあ良くある年末の衝動買いの話として読んでいただければよろしいかと思う。
 

櫛形山での気まぐれ

 櫛形山の林道が12月10日で冬季通行止めに入るらしいとのことで、ちょっと時間に余裕もあったので出かけてみた。この事故?が起こったのはその日のお昼頃であった。


 山頂を往復しただけだったから登山口に戻った時点では、まだ10時にもなっていなかった。そこでちょっと中古カメラでも見に行ってみるかと、甲府に出ることにした。僕が現在メインで使用している写真機材の多くは中古品で購入したものだ。我が家は高額な機材を新品で買えるほど裕福ではではないのである。


出合の瞬間

 石和に「シンゲンカメラ」という小さなカメラ屋さんがある。以前雑誌で紹介されていたのを見て、何度か足を運んではいるのだが、まだ何も買ったことはない。しかしここには結構中判カメラの程度の良い中古が置いてあったりするのだ。一期一会、出会いの瞬間のときめきを期待しての訪問である。


 実は、中判カメラで狙っているものがあった。マミヤ7IIというカメラである。これはレンズ交換が可能な距離計連動式(横文字ではレンジファインダーという)の中判(67フォーマット)カメラであって、その大きなフォーマットのわりにはカメラはコンパクトで携帯性に優れたカメラである。


 山に連れて歩くカメラとして考えた場合、携帯性が重要な要素になり、どんなに性能や使い勝手に優れていても大きく重たければやはりザックに入れるのに二の足を踏むことになる。背負う重量が増えれば多かれ少なかれ行動に支障をきたすし、そもそも最初から体力的に背負えないという問題もある。たとえ背負えたところでシャッターチャンスにめぐり合ったときにサッと取り出して撮れなければ何も意味は無いわけで、シノゴなど組み立てに時間がかかったり、三脚が絶対に必要というようなカメラでは、その点において非常に問題が多いわけだ。


 実は先月、東京に出る予定にしていた日があって、その日中古屋めぐりができていたら、そこでこいつを買っていたと思うのだが、あいにく都合がつかずに行けなかった。だから今日もしそれの良い出物があったら速攻ゲットしようというハイな気分になっていたことは否定できない事実である。


 さて、で、どうだったのかというと結局マミヤの出物は無かったのである。それはそれで良かったのであるが、かわりに僕の心をググッと引きつけるブツがウインドーのなかに存在した。
「おおっ・・・これは。」
などとは口にはもちろん出さないが、心の中で叫ばずにはおれなかった。
「見せてください」
と思わず僕は禁断の言葉を口に出していた。

プラウベルマキナ67

 そのブツとは、「プラウベルマキナ67」である。ご存知ない方も多いかもしれないが山岳写真にぴったりの中判カメラとして知るひとぞ知るブツなのである。参考までにそのプロフィールを紹介したい。



プラウベルマキナ67(レンズを収納した状態)


 この冠されている「プラウベル」というブランド名は、今世紀初めからカメラを製造しているドイツのカメラメーカーの名前である。それを1975年に日本のドイが買収。そして1978年に発表されたのがこの「マキナ67」というカメラなのである。この「マキナ」という名前も、もともとプラウベルが戦前から1950年代まで製造していたカメラの名前だ。これは既存のカメラメーカーが商売としての戦略に則って開発・販売したカメラではなく、開発サイドが自分が使いたいカメラを作り上げて販売したカメラであるともいえ、そのテイストは重量感のあるそのボディーからにじみ出ているように感じられる。必要な機能は全て備わっており、無くても良い機能は一切搭載されていない潔さである。


 カメラの分類としては露出計内蔵型蛇腹沈胴式距離系連動レンズシャッター中判カメラであり、その蛇腹の先に装着されたレンズはニッコール80mm/F2.8であった。当時としてはニッコールレンズの選択はベストなものであったと思われ、このあたりにも妥協の無さの一端が感じられる。

 僕が写真を本格的に撮り始めた学生時代(1980年代初期)はちょうど「マキナ」が現行機種として発売されていた時代にあたっており、当時から山にカメラを持ち上げていた僕にとっては憧れではあったが到底手の届くはずも無い高額なカメラであった。兄弟機にワイドレンズを装着した「マキナW67」、改良型後継機の「マキナ670」が存在する。改良されたのは220フイルムが使用できるようになったことと、巻き上げが二段巻き上げになったことらしいのだが、私としては確かな知識を持っていない。確かデザインもわずかにお洒落に変身(ほんのわずかだが)していたように思う。この両者とも中古市場での流通価格は目の玉の飛び出るほど高い


 フイルムフォーマットは名前からわかるようにブローニーフイルムを使う67フォーマット。したがってガサはでかいが、沈胴式を採用することによってレンズを収納すれば携帯に便利な弁当箱型になる。重量は約1.2kg。シャッターはメカシャッターだから電池の心配は無用。巻上げがやや重いと感じられるが、これはもしかすると、最近巻き上げをしなくなった僕の指が退化したからそのように思えるのかもしれない。露出計はLED +○−表示のシンプルなものだが、思ったより正確な露出を示してくれる。



EOS-1HSと比べてこのサイズである



こ・・こ・・これ下さい

 気になるお値段は125000円。高いといえば高く、安いといえば安い。あとで調べてみたところによると、C級のブツなら7万円台であるらしい、B級で10万円くらい。このブツは背中にキズがあるもののA級品に相当する綺麗さであり、消耗品ともいえる蛇腹にも痛みは全く見られない。作動、露出計の精度とも問題はなさそうだ。


 もともとマミヤ7IIを買おうと思っていたテンション、要するに180000円程度の出費は覚悟していた日だったのである。その高揚した気分のなかでは125000円は衝動買いをするに十分なプライスであった。



翌日、本栖湖で早速試写・・朝陽を浴びるマキナ



 マミヤ7とは違いレンズ交換は出来ないものの、67サイズで80mmという焦点距離のレンズは僕にとっては使用頻度がもっと多い焦点距離であり、主力機として使うのに十分である。また、少々設計は古いが、「ニッコール」というブランドは、フィールドでの撮影での安心感においてマミヤレンズに勝っている。さらにメカシャッターは冬季の撮影、バルブ撮影等においてはマミヤ7の電子シャッターに比べ圧倒的なアドバンテージを持つ。生産が終了してから長い年月が経っているのだが未だに修理が可能だということも見逃せない点である。
「いただきます」
もはや手にとったマキナをウインドーに戻す理由を僕は見出すことは出来なかった。



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