仙人力光線

富嶽仙人
00/12/11 05:45 初冬の櫛形山

林道

 林の中の道・・・ではなく、これは林業用等として山に切り開かれた道のことである。純然たる林業や治山工事用途の林道もあるが、観光用途にも供されるものも多い。これらの林道の恩恵で、奥深く昔はアプローチに多くの日数を要した山が、今では容易に登れるようになったケースは沢山ある。これは全く有難い話ではあるのだが、無邪気に有難がってばかりもいられない。林道の建設は多くの場合自然破壊をもたらすのだ。林道そのものが環境を変えることによる破壊、そして大量に訪れることによる人間による破壊である。そうは言ってもあれば便利だから使ってしまうのだが。
 

丸山林道

 丸山林道は山梨県増穂町からアヤメで有名な櫛形山の南側を超えて南アルプス農鳥岳の玄関、奈良田に至る林道である。この林道の途中からは、櫛形山の東側の山腹を横切る櫛形林道、山頂近くまで延びる池の茶屋林道等が派生していて、山へのアプローチを容易にしている。山頂(奥仙重)までなら池の茶屋林道の終点から40分程度で到着する。また、アヤメの咲く裸山までなら櫛形林道の途中から登るのが早い。
 

 この林道の登山観光用途以外のもう一つの顔、それは富士山撮影地としての顔である。山腹を横切る櫛形林道、山腹をジグザグに登っていく、丸山林道の何れも東側が開けて展望が良い。賑わうのは朝。それも太陽の現れる位置が富士山に近づく秋口から林道が冬季通行止めになるまでの間が一番の人気シーズン。寒い中夜明け前からやたらに厚着をした沢山のアマチュアカメラマンが集まりガードレール沿いに三脚を並べる姿は壮観ですらある。




丸山林道から日の出と富士を撮る。



12月9日

 お約束のように丸山林道から富士山の横に顔を出した太陽を撮った後、池の茶屋林道に入って山頂にいちばん近い登山口へと向かった。左に見える白峰三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)は、11月の終わりには遠目に結構白くなっているように見えたのだが、今は辛うじて雪が残っているという状態だ。




池の茶屋林道から白峰三山

 
 
この時期の朝、ここに三脚を立てに来るカメラマンは富士山専門のアマチュアカメラマンが多く、それは富士山以外にはまるで興味が無いというヒトタチだから、たいていは朝の撮影が終わるとさっさと下ってしまうか、仲間でにぎやかな宴会のような朝食をはじめてしまうか、徹夜の車の運転に疲れてしばし爆睡して夕方の撮影に備えるか、とまあそんなところで、山に登ろうというヒトは少ない。富士山の撮影の為なら夜中に重い荷物を背負って登山することもある彼らであるが、その目的が無いと駄目なのだ。


 登山口から山頂へは先にも書いたようにほんの僅かの行程である。撮影を終えた数人のグループに
「山頂まではどのくらいですか」
と聞かれたので
「30〜40分くらいですよ」
と答えたら
「足馴らしにちょうどいいなあ」
と言って登る準備をしだした。

途中振り返ると、軽装でバラバラ登って来るのが見えた。富士山カメラマンにしちゃ珍しいグループである。その上には白峰三山よりは雪の付きが良い悪沢岳と赤石岳が凛々しい姿を見せていた。
 

 山頂は原生林に囲まれているが富士山側だけ少し切り開かれている。展望の良いそこに荷物を置いて仰向けに寝転がって目をつむる。


 少し寝てしまっただろうか、気がつくと鳥の囀りがにぎやかだ。おそらく僕が現れて一旦飛び去ってしまった鳥達が、頭上の樹に舞い戻ってきたのだろう。
 
 
 


櫛形山を花の山として紹介し有名にした故田中澄江さんの言葉を刻んだモニュメント。(櫛形林道)



 件のカメラマン達は、結局山頂に来ることはなかった。
 


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