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川原毛地獄から小安峡に向かう途中に「じゅんさい沼キャンプ場」がある。その名の通り、夏にはジュンサイが湖面を埋め尽くす。このジュンサイを管理しているのは「宮原民芸」の宮原泰治さんだ。彼は独学でこけし作りを習得、作品を作るだけでなく、地域の子ども達にこけしの絵付けも教えられている。ところでジュンサイを採る船はシジミ漁の箱舟に似ている。僕が「じゅんさい沼」を訪れた時、あるグループが沼でジュンサイ採りを体験していた。のどかな風景だった。ほどなく、彼等は採れたてのジュンサイでパーティーを始めた。ジュンサイをほおばる顔は皆幸せそうだ。おいしいに違いない。さすがに僕にも試食させてとは、口には出せない。そこで宮原さんに土産としてジュンサイを分けていただくことにした。旅を終え、自宅に戻るや、さっそくこのジュンサイを食べてみたところ..うううう旨い..いままで食べたジュンサイと全く味が違う。フレッシュ感があふれ、プチプチとした歯触りが格別なのだ。特にごまドレとの相性はバツグンだと思った。例えると、東京で食べるスーパーの「野沢菜漬け」と長野は野沢温泉で食べる「野沢菜漬け」の差といえば分かってもらえるだろうか
2003年7月。今年のジュンサイの状況をお聞きしようと、湯沢の「宮原民芸」に電話をかけた。電話に出られたのは奥様だった。去年もかけているので、分かっているはずなのに..訛りたっぷりの秋田弁で話す奥様の言葉を頭の中でなんとか翻訳出来始めたのは、2分ほど過ぎた頃だろうか。沖縄、鹿児島、青森、秋田のお年寄りに質問する時には覚悟がいる。最初の1分間は外国語を聞いているようで内容は殆ど分からない。心の動揺が鎮まってくるのと、彼等の言葉のリズムがすんなり入ってくるタイミングが合い始めると、なんとか会話が成り立ち始める。この日も同じだった。ご主人は出かけられていること。そして肝心なジュンサイだが、おそらく今年は不作になるだろうということだった。理由は冷夏だ。今年は6月ですらストーブを焚いていたというのだ。それゆえ、今年はお客さんに分けられるほどの収穫は期待できそうもないと、電話の向こうの奥様の声はとても残念そうだった。僕は「じゅんさい沼」のジュンサイは最高のジュンサイなので、「また食べられる機会を楽しみにしていますよ」と告げると、彼女は「どのお客さんも、皆、美味しいといってくださる。それが何よりの励みだ」と話された。あぁぁ、ここのジュンサイ、本当に旨いのだ。僕だけでなく、ガッカリする人達も多いんだろうなぁぁ
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