「山旅倶楽部」で広がるアウトドアライフ
No.191 2003.6.25
秋田県 角館

シンプルなラーメン

シンプルなラーメン
[Exif位置情報 あり]

抱返り渓谷から角館へ出た

朝の武家屋敷はまだ観光客も少なくほっとする。あと2時間もすると、ここも人で混雑するのだろう。ざっと町並みを見学して角館の駅に向かう。角館の駅はなかなかお洒落だ。駅前には人力車の店や、稲庭うどんを扱っている食堂、地酒の豊富な酒屋、観光案内所がある。地酒を見てみよう。店内に入り、店長さんにお薦めの地酒はと聞くと、一押しは「冬樹」だという。それではと土産に購入する。後に湯沢の地酒屋で同じ質問をしたら、やはり「冬樹」がお薦めと返ってきた。湯沢は著名な酒蔵が多い。だから「お薦めは湯沢の地酒ではないのですか」と問い直すと、「冬樹」の味は新しい。東京に進出しても生き残れるだけのオリジナリティーがあると、若い店主は応えた。実際飲んでみたら、その意味を理解できた。「冬樹」は福乃友酒造が作っている。チャレンジ精神は使用している米にあった。無難な山田錦は使用せずに、なんと酒米でなく、ササニシキの系統である地元の食米「キヨニシキ」を使用している。そりゃぁぁチャレンジだわな。十四代も少し甘口だが、冬樹も日本酒度は1度だが、コクとキレ、そして酸味がある。これは確かに銘酒だ

観光案内所に入り、受付の女性にお薦めのラーメン屋さんはありますかと尋ねた。彼女はしばし考え込み「やっているかどうかは不明ですが」と一冊の電話帳を取り出し、ページをパラパラとめくり指差した。そこには伊藤清美という個人名が。「正式な店名は分かりませんが、この人がやっている店です。ただし気まぐれな営業なので、今日やっているかは分からない」という。僕は彼女に礼を述べ、電話番号を控えて案内所を出た。さっそく電話をかけると女性が出た。「今日は営業しますか」と聞くと、「やります」という。場所を訪ねたのだが、どうも彼女の日本語は少し変だ。よく分からないまま、とりあえず向かってみる。しかしどうにも分からない。仕方なく、困ったときのガソリンスタンド。給油を兼ねて「伊藤」というラーメン屋を知っていますかと訪ねるものの、最初は知らないと言われた。しかし「気ままな店らしいのですが」..と突っ込むと、「あぁぁ店の看板も何もない、普通の家のあそこかもしれない」と..

そこは住宅街だった。しかし周りを見ても、店らしいものはどこにもない。もう一度電話をかけ、女性に現在いる場所の景色を告げると、「あなたの居る目の前が店だ」という。なんとラーメン店の前で電話をしていたのだ。それほどまで、「ここがラーメン店だぞ」という気は全く発していない店だ。こういう店はきっと頑固親父がやっているに違いないと、恐る恐る店に入る

店内は10席程度のカウンターのみ。そして客は僕一人。店の人も見えない。壁のメニューを見ると、「そば500円 肉そば650円」、これだけが書かれている。僕は「すいませ〜ん」と声を出した。すると先ほどの声の女性が現れた。やっぱり日本人ではなかったんだ。電話での疑問が一挙に解けた。ブラジルの方なのだろうか、可愛らしい小柄な女性に、さっそく「そば」を注文する。しばらくすると、店主だろう、男性が「そば」を持ってきた。うわわ、予想通り、相当に頑固そうだ。確かに「そば」というだけあり、実にシンプル。具は刻みネギだけ。しかしスープから垣間見える麺は手打だぞと言っている。まずは麺をいただく。間違いなく、これは手打麺だ。佐野ラーメンの手打麺に似たふわふわ感は残っているが、もっとコシがある。佐野ラーメンの麺は頼りないふわふわ感なのだが、こちらはドッシリと座り込む存在感がある。旨い。次にやや濃い目のスープをいただく。うむむ..こりゃ化学調味料は使っていないな。その様子を店主は見ていたのか、「味はどうだ」と聞いてきた。僕は素直に感想を述べた。すると「化調は一切使っていないよ、分かるのか」と嬉しそうな顔になった。それも頑固親父から、途端に茶目っ気のある可愛らしい親父に。話を聞くと、彼は東京の有名なラーメン店にいたらしい。何があったのかは知らないが、この角館で自分の店を始めたようだ。「今、東京で流行っている店はどこだ」など、逆に質問攻めにあってしまった。彼自身の作品の目指す世界はとても高そうだ。しかし角館でこの味を理解する人達は、果たして、どれほどいるのだろうか。今まで食べたラーメンの中でも、伊藤のラーメンはかなりイケてる。食べ飽きない味の作りが好きだ。今食べたばかりなのに、お代わりしたくなる。親父、頑張れよ〜


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